Sponsored Link

偽書シンデレラ伝

 昔々、とある国に下級の貴族がおりました。彼には美しい妻と娘がいたのですが、その娘がまだ幼い頃に妻を亡くしてしまいました。そしてその寂しさ故に、悪い女に引っかかり、その女を後妻として娶ったのでした。しかし、結局、彼自身もしばしの後に病で死んでしまいました。
 さて、後妻には連れ子が二人おりました。どちらも前妻の娘より年上の娘でした。彼女たちははじめのうちこそおとなしくしていましたが、すぐに前妻の娘をいびり始めました。娘はよく言えばおとなしくて気が優しい、悪く言えば気が弱く引っ込み思案な性格だったので、逆らうこともできず、そして、貴族が亡くなってからはさらにエスカレートしていったのです。そして、終いには召使いのように扱われるようになりました。
 そして、毎日毎日働かされ、身だしなみを整えることすらできなかった娘は、いつも灰にまみれており、灰かぶり、すなわちシンデレラと呼ばれるようになりました。

 そして、幾年かの年月が流れました。

 王子様がお年頃になり、妃となる女性を捜している、そんな噂が国中に流れるようになりました。最近お城で頻繁に開かれている舞踏会は妃に相応しい女性を見いだすためのものだ、というものも同時にささやかれていました。
 もちろん、その噂はシンデレラや義母・義姉の耳にも入ります。そして、下級とはいえ、貴族の一族であるシンデレラの家にも人数分の招待状が届きました。義母・義姉の三人はさっそく玉の輿を狙って、舞踏会へ行くことにしました。
 そしてその準備をしているときのことです。着付けを手伝わされていたシンデレラが義母に言いました。
「お義母様。私も舞踏会へ行きたいです。連れていってもらえませんか?」
 それを聞いた義母と義姉は一瞬驚いたような表情を見せたかと思うと、アホみたいに笑い始めました。
 ひとしきり笑ったあと、義母が言います。
「あーっはっはっは。笑わせないで頂戴。あなたが?“灰かぶり”が?舞踏会へ行くですって?ドレスも無いのに行ってどうするつもりなのかしら?」
 上の義姉が言います。
「ほーっほっほっほ。まったくね。一億歩くらい譲ってドレスがあったとしても、あなたなんかに王子様が振り向くと思って?ぶっさいくな脂ぎった貧乏中年貴族にすら反応されないんじゃないかしら?」
 下の義姉が言います。
「みょきょーきょっきょっきょ。それ以前にあなたなんかに招待状が届くこと自体がそもそも疑問だわ。何かの間違いなのじゃなくて?」
 これだけ言われれば普段ならシンデレラはおとなしく従うのですが、今回は珍しく引き下がりませんでした。
「でもっ。私だって、一度くらい舞踏会に・・・」
 必死に勇気を振り絞って言った科白は半ばで中断させられました。そしてその代わりに、
 どふっ、ごんっ、どさっ。
 という音が部屋に響きます。義母が蹴り飛ばし、そして壁に当たってくずれおちたのです。
「口答えするんじゃないよっ!このクソアマがっ!」
 さらにシンデレラを踏みつけながら言いました。義姉二人もそれに加わり、三人はシンデレラを蹴りつけながら耳を塞ぎたくなるような暴言をしばらく吐き続け、シンデレラが全く身動きしないのに気付いてやめました。
「・・・気絶しているだけかい。脅かしやがって」
 一瞬殺してしまったかと思って確認して、義母が言いました。さすがに殺すのはまずいと思ったのでしょう。
「お母様、そんなことより早く準備して行きましょう?」
「そうね。こんなのに構っている暇はないわ。舞踏会が始まってしまいますものね」
 そういうと、三人はさっさと身支度をすませ、舞踏会へ行ってしまいました。

「いってぇ・・・なにしやがんだ、あのばばあども」
 シンデレラが目を覚ましたのは少し後のことでした。ですが、後頭部をさすりながら立ちあがったシンデレラの様子が変です。
「あ〜あ、ったく、全身蹴りつけやがって。あのゴミども、いつかぼこぼこにしてやっからな」
 拳を固めて言い放った言葉は普段のシンデレラなら絶対に言わないような言葉です。そう。なんと、シンデレラは二重人格だったのです。長きに渉る虐待が、シンデレラの精神の一部をゆがませ、それが別人格という形で露見したもの、それが今のシンデレラなのです。
「おー痛てぇ。跡が残ったらどうすんだよ」
 言いながらシンデレラは蹴られた痕を手でさすりました。するとどうでしょう。なんと痕がきれいに消えてしまったではありませんか。毎日のような虐待が、裏人格に特殊な力を与えたのでしょうか。何にしても、シンデレラはそうやって、全身の痕をきれいに消してしまいました。
「こうなったら絶対舞踏会、行ってやるからな」
 そう宣言すると、シンデレラは早速、行動を開始しました。
 まず、井戸から水をくんできて、体を洗うことからはじめます。そして埃や灰にまみれた体と髪をすっかりきれいすると台所に向かいました。そして食器棚をずらします。すると、なんと隠し扉が現れました。これは義母達だけでなく、表人格すら、知らない扉です。
 その扉の奥には、小さな部屋がありました。その部屋にはなんと、大量の金貨やきれいなドレスなど、様々なものがあったのです。これらの品物は、これまでに裏人格が覚醒するたびに、シンデレラ自身が運び込んだものでした。これでドレスやらなんやらは何とかなります。
 シンデレラは早速ドレスを着込み、髪なんかの、身だしなみを整えました。
 普段のシンデレラとは全く違う、上級貴族と言っても見劣りしないであろう美女がそこにいました。ごてごてしたアクセサリはなく、質素なネックレスを一つつけただけでしたが、それすらも、清純さと可憐さを引き立てるものとなっていました。
「うっしゃ。これでいいな。招待状は・・・ばばあの部屋か」
 見た目にそぐわない口調で言うと、その部屋にあった箱を一つ取り出し、隠し部屋を出ました。
 義母の部屋にはいると、箱を机の上に置き、招待状を探し始めました。
 先に探しときゃよかったなあ、と考えながら部屋中を探して回っているうちに、シンデレラは裾をふんでしまいました。そしてそのままひっくりこけます。そして倒れた拍子に頭を打ってしまい、シンデレラはまた気絶してしまいました。

「・・・あら、私、どうしたのかしら・・・?」
 そういいながら目を覚ましたのは、ご想像の通り、表人格の方でした。
 シンデレラはすぐに、自分に起きた変化に気付きました。
「このドレス・・・?」
 表人格には裏人格であったときの記憶はありません。ですから、シンデレラはなぜ自分がこのような格好をしているのか分かりませんでした。
 が、その疑問はいともあっさり解決されました。
「きっと妖精さんか小人さんが願いを叶えてくれたのね」
 そうです。長きに渉る虐待は、二重人格以外にも影響を与えていたのです。表のシンデレラは妖精さんや小人さんとオトモダチであり、天の啓示や宇宙の声が受信できる人になってしまっていたのです。
 あっさり一人で納得したシンデレラは次に机の上に置いてある箱に気付きました。裏人格の時に例の部屋から持ち出したものです。何だろう、と開けてみると、中には美しい靴が入っていました。ガラスの靴、という奴です。ですが、本当はガラスではなく、クリスタル製でした。
 シンデレラはこの靴に見覚えがありました。小さな頃・・・まだ母親が生きていた頃に見せてもらったことがあったのです。確か、母の家に伝わる家宝だ、ということでした。
 シンデレラは試しに履いてみました。するとどうでしょう。ガラスの、もといクリスタルの靴はまるでシンデレラに合わせて作ったようにぴったりだったのです。シンデレラは驚きました。ですがすぐに、「オトモダチ」のおかげだろうと納得しました。そして、
「これなら舞踏会へ行っても誰にも文句を言われないわよね」
 と、独りごち、先ほどの箱の下にあった招待状を手に舞踏会へ向かうことにしました。

 
つづ・・・かない。大昔書いた懐ネタだからもう続きかけないよ・・・